2015年10月、国内4番目の「星のや」が開業を迎えた。
富士山の麓、河口湖を一望できる「星のや富士」だ。
欧米を中心に世界的な盛り上がりを見せるグランピングをコンセプトにした、星野リゾートにとって初めての施設だ。
グラマラス・キャンピング、略してグランピング。
高級リゾートのような優雅さと、キャンプのようなワイルド感がダイナミックに楽しめる新たなリゾートスタイル。
日本ではまだ馴染みのないグランピングをコンセプトにした星のや富士の開業に向けて、チームとして奮闘した開業メンバーに、当時の思いを語ってもらった。

Member Profile

澤田 祐一

総支配人

澤田 祐一

星のや竹富島の立ち上げ及び総支配人を経て、星のや富士の総支配人として着任。
リゾートの作り手として、観光産業に新たな喜びを提供していきたいと思いを抱く。

松野 将至

サービスチーム・ユニットディレクター

松野 将至

星のや軽井沢のサービスチームを経て立候補に挑戦し、星のや富士のサービスチーム ディレクターに選出。
温泉旅館にも強い関心があり、将来は温泉旅館の運営にも関わりたいと思っている。

大竹 信一

サービスチーム

大竹 信一

星のや軽井沢から、公募で星のや富士へ。開業ではフロントやレセプションの設計を担当。サービスの最前線で働くことにこだわり、さまざまな施設での勤務経験を活かして、スタッフの育成にも関わっている。

田川 貴章

調理

田川 貴章

ホテルブレストンコートから、公募で星のや富士へ。
調理を中心に現場での経験が豊富で、今後はマネジメントの知識をつけていきたいと考えている。

一関 早紀

サービスチーム

一関 早紀

星のや竹富島から、公募で星のや富士へ。魅力開発のプロジェクトを複数経験し、星のや富士の開業でも滞在魅力の創出にかかわるアクティビティや、施設の世界観づくりに、今後も注力していきたいと考えている。

大井 祐介

サービスチーム

大井 祐介

星のや京都から、公募で星のや富士へ。客室に関わるプロジェクトを多く経験し、施設の世界観づくりに、今後も注力していきたいと考えている。星のや富士では客室設えや清掃の業務設計を担当。

  • ぼくたちならではの
    「グランピング」って何だろう?
  • 「森の民」が考える
    おもてなしって何だろう?
  • 日本初、世界にひとつの
    グランピングを、この場所から

澤田 今回は「星のや富士」の開業に関わったメンバーで、これまでの活動を振り返りたいと思うけど、まずは「グランピング」という星のやにとって全く新しいコンセプトをどう作り上げていったのか、話し合ってみよう。

松野 星野リゾートで運営する施設は、必ず施設コンセプト(誰に、何を提供するのか)というのがありますよね。今回の場合は、それが「グランピング」。僕もそれまでこの言葉を知らなかったくらい日本では馴染みのないものでした。

澤田 新たな星のやを手がける時には、常に既存の「星のや」を超えるような施設になることを目指している中で、今回のプロジェクトは、海外で新たなリゾートとして「グランピング」の注目が高まる中、日本にも新しいリゾートライフを提案したい。日本にもグランピングを定着させたいという会社としての思いがスタートにあり、それが実現できる場所はどこかと考えた時に、丘陵地にあって6ヘクタールの森がある、この河口湖の土地が最適だとなったんだよ。

大竹 通常施設コンセプトの開発は、市場調査から始め、そこからターゲットを設定してコンセプトに昇華させていく。これが星野リゾートの定番だった。ところがグランピングというのは、そもそも日本では知られてないわけだから、市場調査があまり役に立たない。まったく新しいコンセプトを市場に送り出して、お客さまがどういう反応を示してくれるのか、これはとてもリスクの高い挑戦だったと思うんだ。

大井 僕はメンバーの中で一番キャリアが短いですが、日本にない新たなリゾートカテゴリーを生み出そうというプロジェクトに参加できたことは、とても誇りに思うし、ワクワクする仕事でした。グランピングとは何なのか?ということをすごく勉強しました。

澤田 みんな本当に苦労したと思うよ。グランピングというのは大自然を楽しみ尽くすことと、ラグジュアリーホテルならではの施設やサービスの充実が掛け合わされたもの。そういう意味で、キャンプやアウトドアに普段から慣れ親しんでいる人は、自然の中でどう過ごすべきかよく知っているから、キャンプをしない人がターゲットなんじゃないかとたどり着いたよね。

一関 ええ。私が最初に開業準備に参加させてもらった時の印象は、キャンプ色が強すぎるなということでした。星のやブランドに必要なラグジュアリー感が薄くて、これは星のやらしいグランピングとは言えないのかなと。そこでお迎えする私たちのポジショニングを決めましたよね。キャンプに詳しい人ではなくて、この富士の森に長く暮らす「森の民」なんだと。

田川 この世界観をつくったことが大きかったと思いますね。この森に昔から住んでいて、森に関する知識をたくさん持ち、日々森の暮らしを楽しんでいる。そんな森の民が都会からやってきたお客さまに森の楽しい過ごし方を提案する。この世界観ができたとき、それぞれのメンバーの中に、自分の役割をどうカタチにしていくかが見えてきたと思います。

澤田 うん。そこから私たちにとってのグランピングとは何かという4つの定義ができた。みんな覚えてる?

松野 ええ、もちろん!1つめが「遊びをデザインできる大自然がある」。充実したグランピング体験が満喫できるだけの環境を有しているということですね。

一関 2つめが「グランピングマスターが提案するアウトドア体験がある」。森の民である私たちスタッフが介在してご提案する、屋外でのアクティビティが充実していること。

大井 3つめが「屋外を感じる快適な客室」。大自然の美しいロケーションを部屋の中からも楽しめるということですね。

田川 それで最後が「ワイルドライフが好きなシェフが演出する食事」ですね。料理も高級フレンチや割烹料理のようなものでなく、大自然の中でこそ感じられる素材の魅力を引き出した美味しさを提案するということですね。

大竹 そうそう。4つの要素を言語化するまで苦しかったよね!これらが定義されたことで、各人に任されたサービス開発が、スタートラインに立てたと思う。もちろんいまでも手探りの部分はあると思うけど、これらの定義によって、世界のどこにもない、星のや富士独自のグランピング・リゾートが作れるんじゃないかという強い思いが沸いてきた。

澤田 こうやって、僕らなりの「グランピング」を定義し、「森の民」という世界観を構築したわけだよね。この世界観のディテールへのこだわりが、各種サービスや魅力開発に活かされていくようになったね。

松野 そうですね。分かりやすいところで言うと、スタッフのユニフォーム。森の民の民族衣装というのがテーマになっている。森の中を自由に動き回るための機能性と、森を知り尽くしているという知的さ。これら両軸を実現する衣装ということで、デザイナーさんと何度も議論を交わして、いまのデザインになりましたよね。

田川 レセプションとフロントを行き来する送迎車も、星のやでは初めてJEEPを採用しました。コスト面や機能性を考えると国産の小型車の方がいいんでしょうけど、それじゃ森の民らしくない。やっぱりクロスカントリー車を代表するJEEPでないと。でもこれ、社内を説得するのは大変だったんじゃないですか?

松野 大変でした(笑)。車両価格だけじゃなくて、その後の維持費なども全て見積もった上で社内でプレゼンしましたね。星のや軽井沢で使われている国産小型車に比べると、桁違いの維持費がかかります。でも、僕らが提唱するグランピングを体現するためにはJEEPじゃなけりゃダメだと食い下がって。社長からは、「それで顧客満足度は上がるのか?」と念を押された。だから「上がります」と断言しました。裏付けるデータなどは何もないんだけれど、確信はあったから。

澤田 実際にお客様からの評判は上々。レセプションはお客さまを現実社会から非日常の星のやへ招きいれる玄関口。非日常空間へ導く役割を十分に担ってくれていると思うね。そしてフロントへお連れしたお客さまをどうお迎えするかという点を、フロント・レセプション担当の大竹に聞いてみようか。

大竹 まず前提として、星のや富士は宿泊施設なわけだから、そこは星のやブランドからブレずにやろうと決めていたんだよね。富士らしさを出そうと考えたのはレセプション。JEEPもそのひとつ。それとグランピングアイテム。これは到着したお客さまにお渡しするリュックサックなんだけど、「さあ、いまから大自然を思う存分満喫してください」という僕らからのおもてなしの提案なんだ。バードウォッチングなどを楽しむための双眼鏡、夜や明け方の森を散策するためのヘッドランプ、自然の中で食べると美味しいちょっとしたお菓子なんかが入っている。都会からお越しいただいたお客さまへ、いまから非日常の時間が始まりますよ、という僕らからのメッセージという意味も込められるように開発したんだよね。

一関 私は魅力開発の担当でしたから、コンセプト体現が自分の役目だと自覚して考えました。森に親しんでいただきたい、大自然の時間の流れをゆったり味わっていただきたい、そういう私たちの思いの導入になるようなものを開発しました。フロントでチェックインして、客室に荷物を置いたら、リュックサックを背負ってまず何をしていただくべきか。森を上がってきたクラウドテラスにお菓子を用意したんですが、そこにも森の楽しみを味わっていただく仕掛けをしました。マシュマロやバナナを串に刺して焚き火で焼いてもらうことを提案します。焚き火の周りでマシュマロを焼きながら、「ああ、焚き火の火って、柔らかな温かさがあるんだな」と感じ取っていただけるように。

澤田 夜のクラウドテラスのウイスキーも実に見事な味わいだよね。

一関 そうですね。森の香りや焚き火の煙の匂いに、ウイスキーのコクやまろやかさがマッチするんですね。ウイスキーの蒸留所って森の中にあることが多いんです。ウイスキーの香りと自然の香りが相乗効果になって、お客さまにも大変ゆったりした気持ちになると仰っていただけます。

田川 料理に関しては、土地の魅力に触れるような演出をしたいと考えました。例えば河口湖は自生の鹿が多いので地元の猟師さんとネットワークをつくって、新鮮な鹿肉を仕入れさせてもらえるよう交渉しています。
ワイルドライフが好きなシェフという世界観を大事にしながら、食の魅力に触れる機会を提供していきたい。鹿肉からジャーキーの燻製をつくるアクティビティをはじめたところ評判は良いですね。きっとウイスキーのつまみにしたら最高だと思いますよ。それとキノコや野菜も地元のものをできる限り使用します。地元の農家さんとネットワークを作ることで、それが可能になるんです。

一関 ネットワークづくりって大変じゃないですか?

田川 それには信頼関係を築くことですね。私たちが星のや富士でやろうとしていることをしっかりお伝えすることで、少しずつ共感してもらえるようになりました。河口湖や山梨の食の魅力を県外の方に知っていただきたいという気持ちは、農家や猟師の方も同じです。思いが一致することで、お互いが協力しようという気持ちになる。ですから春からは、果樹園の方とも協力していきます。

大井 客室については、屋外を感じる快適な客室というコンセプトがありますから、それを実現することですね。お部屋からの眺望を第一に、できるだけ屋外の景色を邪魔しない内装にしています。テラスリビングにはファイヤープレイスを設置し、お部屋でも焚き火の火を感じられるようにしています。

澤田 室内を白で統一しているから、清潔感を保つのも大変だよね。

大井 はい。客室清掃を効率的に行なうためのマニュアルを作りました。ただ、清掃の場合はお客さまご利用後のお部屋を元に戻すだけでは意味がないですね。欧米のホテルにとって、清掃は元に戻すという意味でいいのでしょうが、私たちはそうではないです。「しつらえる」と言ったほうが正しいかもしれません。新たなお客さまを迎えるにあたって、備品をどう配置したらお客さまは使いやすいんだろう、シーツやお布団をどのようにセッティングしたらお客さまは美しいと感じるんだろう、そういったことを配慮しながらお迎えする準備をする。その思いが大切ですね。

澤田 それぞれの役割で模索しながら、2015年10月30日に開業したわけだけど、僕らが提案するグランピングをお客様に理解していただくまでには時間がかかったね。もちろんこれからも努力を続けていくのだけれども。

大井 そうですね。開業当初はグランピングに興味を持ってお越しくださったお客さまよりも、星のやの一番新しい施設だから行ってみようというお客さまが多かったですね。軽井沢や京都などをイメージしていらっしゃっているので「これが星のや?」と仰るお客さまもいらっしゃって。私たちの世界観を理解していただくには、まだまだやるべきことがあると感じました。

大竹 やっぱり「星のや」というブランドイメージが、広がりつつあるのを実感しましたね。星のやファンという層は少なからずいらっしゃって、そのイメージで富士を見てみると、コンセプトから何から違うわけだから、裏切られたという気持ちになるのも分かる。でも僕らはこの場所から、日本発のグランピングという、新たなリゾートカテゴリーを作っていこうと固い意志があるわけだから、そういったお客さまにも僕らのやりたいことを理解していただき、共感していただくために努力を続けなきゃいけない。

松野 日本ではグランピングそのものが根付いていないわけで、私たちがやろうとしていることは、日本に新たなリゾートを作ろうという、前例のないチャレンジ。最初からトントン拍子でうまくいくはずはない。まずは私たちが「森の民」として、この土地の魅力を知り尽くし、味わい尽くした上で、その魅力をお客さまに伝えていきましょう。

一関 最近では、お客さまから「スタッフがとても楽しそうにしていて、こちらまで元気がもらえる」という言葉をいただくようになりましたね。

田川 ランチのピザ作り体験なんかでも、とても真剣に窯を見つめているお客さまもいますね。少しずつですけど、お客さまにも自然の中でゆったりと時間を楽しむ感覚が伝わってきているように思いますね。

一関 みんなが言うように、まずは私たち自身が森への理解や魅力を感じ取って、頭でなく全身でその楽しさをダイナミックに伝えられるようにしていきたいよね。全身で楽しさを表現できれば、それは絶対お客さまにも伝わるはず。理解してもらうのではなく、感じてもらうことが大切だと思う。

澤田 世界に目を向ければ、砂漠の中のグランピングやサバンナの中のグランピングといったリゾートが存在しています。この河口湖には、砂漠も野生の猛獣もないわけですが、この森の中には四季があり、四季折々の草花や野鳥がいる。日本の財産ともいえる大自然の四季を、ダイレクトにダイナミックに感じ取ることのできるグランピング・リゾートを目指しましょう。

田川 私はワイルドライフが好きなシェフとして、もっともっと河口湖の四季を感じられる料理を開発していきますよ。

一関 私もすっかり薪割りが得意になって、森の民ですね(笑)