2016年4月、「界 日光」に栃木の伝統工芸が光る「組子ライブラリー」が誕生した。
鹿沼組子、日光彫、益子焼など栃木を代表する伝統工芸を活かした非日常空間が広がる。
星野リゾートが手掛ける「界」ブランドのコンセプトと、
「界 日光」ならではの滞在ストーリーが融合した、ひとつの象徴であり、界日光の滞在ストーリーのワンシーンだ。
では、「界 日光」の滞在ストーリーとはなんなのか?
またそのストーリーを具現化するために、スタッフたちは何を考え、どう動いたのか?
ストーリーの具現化を推進した3人に、当時のことを振り返ってもらった。

Member Profile

永田 淑子

総支配人

永田 淑子

星のや軽井沢のサービスチームよりスタート、リゾナーレ八ヶ岳のスパディレクター、 ウトコオーベルジュ&スパの総支配人を経て、2015年10月に界 日光の総支配人に着任。
出身地の山梨でリゾナーレ八ケ岳の経営破綻、そして再生していく様子を見て星野リゾートに興味を持ち入社。

立川 久美子

サービスチーム

立川 久美子

2016年1月に異業界から転職。初めての配属先が界 日光
だった。
星野リゾートの「自分でつくるキャリア」に強い興味をもち、入社を決めた。

磯部 竜

サービスチーム

磯部 竜

2015年新卒入社。1年間のOJT研修を経て、界 日光に正式配属。
就職活動で星野リゾートと出会い、まだまだ未完成で面白いと感じ、入社を決めた。

  • 和心地×日光ステキ旅
    =現代の日光詣?
  • わたしたちは、
    「現代の日光詣」
    のクリエ―ター?
  • わたしたちは、
    「現代の日光詣」
    を表現する演者?

磯部 今回、界 日光の滞在ストーリー構築の流れについて、みなさんと振り返っていきたいと思いますが、僕はまだまだ社会人2年目の若手なので、先輩方にいろいろ質問していきたいと思います。

立川 じゃあ、磯部さんが進行役ということでいいですね?(笑)

永田 がんばってね(笑)

磯部 あ、はい。頑張ります(笑)。2015年の10月に永田さんが総支配人として赴任したタイミングから、界 日光の施設コンセプトを再設定しようという取り組みがはじまり、ここまでに大きく変わったなという印象があるんですが、永田さんはなぜコンセプトを見直そうという発想になったのですか?

永田 うん、私にとって施設コンセプトというのは、『界』のブランドコンセプトと、施設があるエリアの地域性の掛け合わせによって創られるべきだという信念があって。『界』のコンセプトは和心地。それは日本旅館の王道とも言うべき、いい料理、いい温泉、四季折々の魅力を感じさせる設え。そこにその土地の魅力を盛り込んでいくことだと解釈しています。では日光の魅力ってなんだろう?と考えた時に、それまでの界 日光が打ち出していた地域の魅力に違和感をもったのがきっかけです。

磯部 それは具体的に言うとどういうことですか?

永田 日光と言えばだれもが思いつくのが日光東照宮ですよね。ある意味最もベタな魅力とも言える。だからこれまでは東照宮の持つ存在感に引っ張られすぎないように、新しい日光の魅力を引き出すことに力を入れてきたと思います。でも日光の歴史などを一つひとつ紐解いていくうちに、東照宮の魅力抜きに日光を語ることはできないと思うようになりました。例えば伝統工芸の日光下駄。これは冬、雪深くなる日光を、参拝客が歩きやすいようにと改良を重ねられて完成したものなのです。

立川 鹿沼組子もそうですよね。江戸時代、東照宮造営のために全国から職人さんが集められて、その期間彼らが滞在していたのが鹿沼という場所。彼らが鹿沼の人たちに伝承した技術から鹿沼組子は始まったそうです。

磯部 そうか。日光や栃木の魅力を探っていくと、東照宮との関わりが見えてくるというわけですね。

永田 ええ。だから東照宮と向き合うことによって、その歴史含めて地域の魅力がより鮮明になってくると思いました。東照宮造営に深くかかわった職人さん達、そして参拝に訪れる人々。そうした人たちの当時の思いも含めて魅力を表現することが、界 日光のやるべきことなんだと。

立川 それともうひとつ。“日光ステキ旅”というキーワードも出ましたね。30代の女性が思わずステキと口から洩れるようなアイテムを増やしていこうというものでした。

永田 日光は昔から観光の名所なので、外的要因によって宿泊してくださるお客様も多いですが、それだけでは界らしくないんじゃないかと思いました。私たちの施設自体に滞在する魅力を感じていただかなければ、それは星野リゾートが運営する意味がないのではと思いました。だからお客様が滞在中にステキという言葉を何回も発してしまうような魅力を、施設やサービスに散りばめていきたいと。“日光ステキ旅”というキーワードには、東照宮を中心とした地域の魅力と、それに負けないくらいの施設の魅力を両輪で追求していこうという意味を込めました。

磯部 界のコンセプト「和心地」と、東照宮を中心とした地域の魅力、そして施設自体の魅力。これら3つを掛け合わせていくことで、界 日光の滞在ストーリーの核となる、「現代の日光詣」が生まれましたね。僕もこの言葉に辿り着いた時に、担当していた魅力開発にも、方向性が見えたと確信しました。

磯部 現代の日光詣という滞在ストーリーを僕らスタッフたちでどう具現化していくか、スタッフの共通認識を作りましたね。ご当地の食材に彩られた料理であること、日光の歴史を感じさせること、そして地元の文化に敬意を払うこと。

立川 そしてそこに、お客様が“ステキ”と感じる演出を加えること。私たちはお客様に非日常の時間を感じさせる演出家になると設定した時に、とてもフィット感を得ました。

永田 組子ライブラリーがオープンするにあたり、そこにどんな「ステキ演出」を加えるかという点で、2人には大活躍してもらいました。

磯部 チェックインからお客様をこの組子ライブラリーにご案内できるようになり、非日常空間への入り口という役割を担ってくれて、お客様が自然と僕らの滞在ストーリーの中に入れるようになったと思います。

立川 その際に提供する甘酒もすごくいいですね。栃木県大田原市で造られている甘酒ですけど、昔日光詣に訪れる参拝者が、街道沿いの茶屋で休憩する際に飲んでいたもの。もうここから日光詣が始まっているんだというストーリーを感じていただけます。

永田 甘酒は江戸時代のエナジードリンクだったという豆知識にもお客様は驚かれます。そして立川さん渾身の「宵待ライブラリー」と「月影ライブラリー」もお客様に高評価をいただいていますよね。

立川 空間演出を創りこむ際に、ネーミングの持つ印象って重要なのだと改めて学びました。「宵待ライブラリー」は夕暮れの時間帯、お客様にロゼのスパークリングワインをお出しするサービスですが、組子越しに見る夕陽が本当に美しい。中禅寺湖の湖面に夕陽が映えて、まるでバラ色のシャワーが湖面に降り注がれるようで。宵を待つこの時間帯に、夕陽を眺めながらロゼ・スパークリングワインをいただくことの、なんて贅沢な時間の使い方なんだろうと。それですぐに「宵待」というワードが出てきました。

磯部 ぴったりの言葉ですね。でも夜の時間帯の「月影」という言葉を発見するまでは、すごく時間がかかったと聞きました。

立川 夜になると中禅寺湖が真っ暗になって、何も見えない本当の闇になってしまうので、どうしてもネガティブなイメージの言葉が浮かんでしまう。そこで注目したのが月でしたね。ちょうど施設の真上に月が来て、界 日光を月が照らしているような感じでした。暗闇の中にぼんやりと月明かりが浮かぶ幻想的な様をイメージして、「月影」という言葉が出てきました。

永田 その月影の下でいただくコーヒーにもこだわりましたね。それを担当してくれたのが、磯部さんでした。夕食後の時間をどう過ごしていただくか、これって旅の有意義さを感じる中でも大変重要な時間だと思うんです。お客様自身に珈琲豆を挽いていただき、その香りがライブラリー中を満たす。夕食後の至福の時間の過ごし方を提案できたと思います。

磯部 これは日光珈琲さんという地元のカフェとのコラボ企画なんですが、僕たちの意図をそこのご主人に共感いただけたことが大きかったと思います。月影ライブラリーの世界観をイメージして、オリジナルにブレンドしていただいたコーヒーをお客様に提供することができた。界 日光での滞在ストーリーの中に、地元で愛されるコーヒーを自分で挽きながら、その香りや味に満たされて床についていただくという、非日常の一日の終わり方としてこの上ない、ステキな演出になったと思います。

永田 日光下駄にしても日光珈琲にしても、もちろん鹿沼組子にしたって、地元の職人さんたちの協力がなければ絶対に成し得なかった演出ですからね、本当に感謝ですね。

磯部 僕たちは「現代の日光詣」のクリエーターでありながら、それを表現する演者でもあると認識しました。

永田 とても簡単な例だけど、ラウンジである「組子ライブラリー」にティーバッグやコーヒーを置いておいて、ご自由にお飲みくださいでは、そこにモノが置いてあるだけでサービスとは言えません。お客様が椅子に腰かけて、お茶をどうぞ、ジュースをどうぞとさっと提供する。これで初めてサービスが成立すると思います。私たちスタッフが先回りして動くこと。ちょっとした動作でも非日常空間をお客様に感じていただくことに繋がる。それが私たちが演じるということだと思いますね。

磯部 日光下駄によるタップダンスの披露は、その象徴的なものですよね。

立川 日光下駄という歴史的な意味をもつ伝統工芸と、現代的なタップダンスの組み合わせ。「現代の日光詣」というテーマにぴったりなアトラクションだと思います。星野リゾートが運営に入る前から施設にあった能楽堂を、こういう風に活かすんだ!と目からウロコが落ちるような気がしました。

磯部 「界」ではどの施設にも、ご当地楽という地域の魅力的な文化をお客様に楽しんでいただくおもてなしの工夫がありますが、「日光下駄談義」はその中でも異質なものだと思います。

永田 日光下駄の成り立ちや魅力を伝えようと考えた時に、歴史の解説やお客様に実際に履いていただくという体験だけでは足りないなと。そこにエンターテイメント性を加えることでお客様の心に深く印象を残せると思う。タップダンスに適した履物であるという特性をうまく利用できた例ですよね。

立川 そしてタップダンスを披露するのが、プロのダンサーではなく私たちスタッフだということが大切なのかなと思います。

永田 そう。私たち自身が取り組むことによって、日光下駄への愛着や演者としての意識も高まってくる。お客様と同じ時間を共有することで一体感が生まれますし、その後お客様とお会いした際に会話も弾みます。

磯部 僕自身の経験でいえば、季節ごとの魅力をどう表現するかという点で、夏・秋の魅力開発を経験させていただけたことが、自信に繋がったと思います。

立川 これはまだ磯部さんがOJT研修の時に頑張って開発したものですね。

磯部 はい。魅力の創り方なんて全然わからない状態でしたから、砂漠の真ん中に放り出された気分でしたよ(笑)。特に夏の魅力が難しかったです。最初考えたのは、中禅寺湖周辺には外国の大使館の別荘がいくつかあって、じゃあ外国の大使たちが夏の日光をどう感じたんだろうということを考えて。でも永田さんから、大切なのはこの場所が昔から避暑地として愛され続けていることなんだとアドバイスをいただいて。それで「足水テラス」の開発に辿り着きました。

立川 避暑地だからこそ真夏日でも外に出て涼を感じることができる。足水用の桶にビー玉を敷き詰めて、鹿沼組子を浮かべるという演出が、とてもロマンティックだなと感じます。

磯部 でももっと完成度を高めたい、世界観をつくりたいと思い考えたのが、僕自身が演者として何か盛り上げる仕掛けをつくろうということです。江戸時代の町人の衣装を着て、天秤棒を担いで桶に水を注ぎ入れるアトラクションを加えました。お客様も驚いていますが、とても喜んでくれて。これからはもっともっと演者としての演技力に磨きをかけたいですね(笑)。

永田 「界」らしさを表現するうえで、季節性を感じさせるというのはとても重要なこと。そこに地域特有の魅力が出せれば、お客様に届くおもてなしになると思います。立川さんが担当してくれている「宵待」や「月影」、磯部さんが担当してくれている「足水テラス」は、日光のこのロケーションだからこそできるおもてなしなんだと思う。2人ともこの考え方をきちんと理解して取り組んでくれているから、演出家として、また演者として、これからも界 日光を盛り上げていってほしいですね。

立川 ありがとうございます。私もお客様の「ステキ」という言葉をもっともっと引き出せるように頑張りたいです。

磯部 「現代の日光詣」を表現するうえで、もっと多くの魅力が日光にはあると思うので、僕も追求し続けていきたいと思います。今日はみなさんとお話しできて良かったです。星野リゾートで働く意義や面白さが、再確認できたように思います。ありがとうございました!